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神戸地方裁判所 昭和30年(行)25号 判決

原告 株式会社小畠商店

被告 伊丹税務署長

訴訟代理人 辻本勇 外二名

主文

被告が原告に対して昭和二九年六月三〇日付でした原告の昭和二八年二月一日ないし昭和二九年一月三一日事業年度の所得金額五二六、一〇〇円、法人税額二二〇、九六〇円とした更正決定はこれを取り消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、各一を原、被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項と同旨及び被告が昭和二九年六月三〇日付でした原告の昭和二七年二月一日ないし昭和二八年一月三一日事業年度所得金額六八一、六〇〇円、法人税額二八六、二七〇円とした更正決定はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二七年二月一日設立され、肩書地で食料品の小売営業をなす資本金三〇万円の株式会社であるが、被告に対し、同二八年三月二八日付で同二七年二月一日ないし同二八年一月三一日事業年度(以下昭和二七年度という)所得金額二二九、四〇〇円、法人税額九六、三四〇円、同二九年三月三一日付で同二八年二月一日ないし同二九年一月三一日事業年度(以下昭和二八年度という)所得金額二二五、五八四円、法人税額九四、七一〇円とそれぞれ確定申告をしたところ、被告は原告に対し、同二九年六月三〇日付で、昭和二七年度の所得金額六八一、六〇〇円、法人税額二八六、二七〇円、昭和二八年度の所得金額五二六、一〇〇円、法人税額二二〇、九六〇円との更正決定をした。そこで原告は右各決定を不服として、同年七月二四日再調査の請求をしたが、被告はその後三カ月内に再調査決定をしなかつたので、法人税法第三五条第三項第二号の規定によつて右期間最終日の同年一〇月二四日の経過とともに大阪国税局長に対する審査の請求があつたものとみなされ、大阪国税局長は審査の結果、被告の各更正決定を相当と認めて原告の審査請求を棄却するとの審査決定をし、原告に対し、昭和二七年度分については同三〇年六月八日付で、昭和二八年度分については同年同月三〇日付で右決定の通知をした。

二、しかし右両年度の原告の所得計算は別表(一)、(二)のとおりであつて、被告の各更正決定は、その所得金額の算定を誤り、過大に法人税を課す違法の決定であるから、その取消を求める。被告の主張に対する答弁として

三、第一の昭和二七年度分について

一の(一)の(2) の事実の内、小畠清が原告設立以前、原告肩書地店舗で原告と同種の小売業を経営して来たが、原告が設立されるに及び、同社の取締役として実兄である原告代表者小畠武雄等の兄弟とともにその業務に当つて来たこと、三和銀行伊丹支店に小畠清名義の当座預金口座があり、営業上の取引の用に供せられていたことは認めるが、右当座預金額及び該預金が原告の売上金の一部であるとの点は争う。小畠清は昭和二六年から個人で営業を行つて来たが、原告設立後は、一方では原告の営業にたずさわるとともに他方では他の役員に秘して個人的にブローカーとして同種の商品を取り扱い、右預金口座を右個人取引の用に使用していたものであつて、原告の取引のために使用したことはない。二の(三)の(2) の研究費は新聞紙購入費であることは認めるが、後日その新聞紙が商品の包紙として使用できることを考えれば必要経費に算入されて然るべきである。同(3) の旅費は毎朝大阪中央市場で商品の仕入をするための出張旅費である。同(4) の賄費は従業員に対し毎営業日に支給している一日につき合計一〇〇円相当の昼食の副食費である。

四、第二の昭和二八年度分について

被告主張の事実の内、その主張の日時、その定期預金がなされていること、右預金名義人の身分関係、昭和二八年度における小畠武雄、妻絹子の年収合計金額及び小畠博正の年収金額が被告主張のとおりであることは認めるが、土田繁子の収入額、右各定期預金が原告の記帳外の売上金よりなされたものであるとの点は争う。土田繁子の年収は金九六、〇〇〇円である。右各定期預金は各名義人の収入から預入れたものである。しかして右各名義人の家族構成は、小畠武雄夫婦は子供一名とで計三名、小畠博正は妻とで二名、土田繁子は子供三名とで計四名であるところ、かかる家庭において、その収入から前記各定期預金をしても少しも不合理ではない。

と述べ

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の一、の事実は認める。被告の各更正額は原告の所得額を超過するものではないから、各更正決定にはかしがなく、適法であり、これを詳述すると次のとおりである。

第一、昭和二七年度所得

一(一)、売上金一八、一八九、四五八円

(1)、原告の計上売上金一七、四二七、六五八円

(2)、記帳外の売上金七六一、八〇〇円

この内容は小畠清名義の当座預金七六一、八〇〇円である。右預金額は原告の設立日である昭和二七年二月一日以降同年三月二八日までの頂入金一、〇四三、四三一円五〇銭から原告の売上金でないと認められる同年二月二日の預入金二二五、七三一円五〇銭、同月二二日預入金六五、九〇〇円、原告代表者小畠武雄名義の当座預金から振り込まれた金五五、九〇〇円合計金二八一、六三一円五〇銭を差し引いた金額であるが、被告が清名義の前記預金額を原告の売上金の一部であると認めた理由は次のとおりである。即ち、小畠清は原告設立以前個人で原告の肩書地において原告と同種の小売業を経営していたが、原告が右営業をそのまま引き継いで設立されるに及び同社の取締役となり、実兄の代表者小畠武雄等の兄弟とともに原告の業務に当つて来たものであるが、(イ)、清名義の預金口座は原告と同一の取引先に対する営業取引のために使用されていること、(ロ)、原告の設立の前後を通じてみた清名義の預金口座と原告の預金口座の各出入金の状況は別表(三)記載のとおりであつて、右別表によれば、原告設立後の右両者の日々の預入合計金を原告売上金とみれば、該売上金はそれ以前の清個人経営時代の預入金即ち売上金とほぼ同様の状態で継続推移していることが認められ、若し原告設立後の清名義の預金口座出入金が同人個人の取引によるものとすれば法人組織になつて急に売上金が減少したことになり、かかることは通常考えられないこと、(ハ)仮に清名義の預金口座が原告主張の如く同人個人の用に使用されていたとしても、原告のような個人会社にあつては、清の取引をそのまま個人取引として容認した場合には原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となり、このような場合法人税法第三一条の三の規定によつて右個人取引による利益を原告の所得に加算すべきものであること。以上いずれにしても清名義の預金七六一、八〇〇円は原告の売上金に加算さるべきである。

したがつて原告の売上金は(一)、(二)合計金一八、一八九、四五八円となる。

(二)、営業利益金六九一、一九九円

右金額は前記売上金に三・八パーセントの営業利益率を乗じて推計したものである。原告の計上したところによれば、一・八パーセントの売買利益率となり、一般同業者の平均率五・八パーセントに比し余りに低率である上、かかる低率は原告のような小資本の小売店においては経営の危機を示すものであつて、通常の経営のもとでは到底考えられないこと、前記の如く売上金の一部を記帳せず、この点についての税務官吏の質問に対し納得の行く説明が得られなかつたこと、その他原告の営業状態、記帳の方法等を考えて原告の記帳のみによつては適正な所得を算出し得ないと認め、法人税法第三一条の四第二項の規定によつて推計の方法によつた。しかして原告の肩書地店舗が伊丹の繁華街にある市場内に位置し、特に同業者間の競争が激しいことも考慮し、その売買利益率を三・八パーセントと押え、これを前記売上金に乗じると営業利益金は六九一、一九九円となる。被告の採用した右営業利益率の正当であることは後記の大阪国税局協議団の所得算出の結果によつても明らかである。

(三)、所得金額六八一、六八四円

右営業利益金に原告計上の営業外利益である預金利息八四円、雑収入四、四〇〇円を加算し、営業外損金である創業費一四、〇〇〇円を差引けば原告の所得は金六八一、六八四円となる。

二、大阪国税局協議団の営業利益金

(一)、原価一五、三八八、二七六円

原告帳簿記載の年間仕入金額一五、七六二、一一一円及び棚卸商品額三七三、八三五円を誤りないものと認め右仕入金から棚卸商品額を差引けば原価は一五、三八八、二七六円となる。

(二)、売上金一七、八一五、六一二円

原告帳簿記載の品目別仕入割合及び売買差益率を誤りのないものと認め、前記仕入金に対する原告の品目別仕入割合により算出した品目別原価及売買差益率は、別表(四)記載のとおりであり、これに基いて品目別仕入金額/1-売買差益率=売上金の算式で算出した結果得られた品目別売上金は同表記載のとおりであり、その合計金額は一七、八一五、六一二円となる。

(三)、必要経費一、七三九、一九七円

原告算入の必要経費は一、八四一、八七七円となつているが、その内、右協議団において否認した左記必要経費合計金一〇二、六八〇円を除き、右協議団の認めたその余の必要経費額である。

(1)、消耗品費昭和二七年一一月二六日付の三、一二〇円、同月二九日付の一、五六〇円

右は架空のものである。

(2)、研究費五、四七〇円

この内容は産業経済新聞、大阪日日新聞の購入費であるが、経済専門紙であれば格別、経営上特に必要性のない新聞は一般教養費として家計費から支出すべきであつて、必要経費とは認められない。

(3)、旅費六三、〇〇〇円

右は定期的に定額を支給したものであり、後日なんらの清算がなされていないからその支出が真実旅費にあてられたものかどうか不明であつて、旅費として必要経費に算入することができない。

(4)、賄費二九、五三〇円

原告は一日につき一〇〇円あて従業員の昼食茶代として支出したものとするが、従業員から別に一か月三、五〇〇円の賄費を徴収し、しかもその収支が整理されていないから必要経費とは認められない。

(5)、営業利益金六八八、一三九円

売上金から原価及び必要経費を差引いて得られた営業利益金は六八八、一三九円となる。

第二、昭和二八年度所得

一、原告申告の所得金額二二五、五八四円

二、原告申告外の所得金額三六〇、〇〇〇円

この内容は(1) 、小畠武雄名義、金額一〇〇、〇〇〇円、預入日昭和二八年九月二〇日、(2) 、小畠絹子名義、金額一〇〇、〇〇〇円、預入日同二九年四月九日、(3) 、小畠博正各義、金額一〇〇、〇〇〇円、預入日同年一一月一〇日、(4) 、土田繁子名義、金額二〇、〇〇〇円二口計四〇、〇〇〇円、預入日同二八年二月二日、同年一〇月五日、以上五口の定期預金合計金三四〇、〇〇〇円及び手持現金二〇、〇〇〇円である。被告は右定期預金を次の理由から原告の記帳外の売上金をもつてなされたものと推定した。(1) 、各名義人の身分関係は、小畠武雄に対し、小畠絹子は妻、小畠博正は弟、土田繁子は妹であること、(2) 、各名義人の住所は小畠武雄、同絹子夫婦を除き、それぞれ異つているにかかわらず、これらの定期預金にいずれも小畠武雄の印鑑が使用されていること、(3) 、原告代表者は税務官吏の調査にあたり、右各定期預金はいずれも同人の給与から積立てたものであると申し立てたが、同人の給与は一カ月平均三五、〇〇〇円であるから、同人の生活程度からみて年間三四〇、〇〇〇円の預金をなすということは到底考えられないこと、4、各名義人の給与から積立てたものとも考えられないこと、即ち小畠武雄、同絹子夫婦の年間収入は金五七三、〇〇〇円、これに対し両名の定期預金は前記二口の外、絹子名義の昭和二九年九月三〇日預入の金額一〇〇、〇〇〇円一口合計三口金三〇〇、〇〇〇円であり、この定期預金の収入に対する割合は五二・三パーセント、小畠博正方の年間収入は金三三二、〇〇〇円、これに対する前記定期預金一〇〇、〇〇〇円の割合は三〇・一パーセント、土田繁子の年間収入は金八二、〇〇〇円、これに対する前記定期預金四〇、〇〇〇円の割合は四三・九パーセントとなるが、右計算の基礎とした収入金額は所得税控除前の金額であるから実際の収入金額に対する貯蓄率は更に増大し、右各収入の家庭においてこのような高率の貯金をするということは社会の通念に反する。以上の理由から右定期預金は原告の記帳外の売上金をもつてなされたものと推断した。なお、原告は翌年度開始直後、更に預金をしている事実がある。この事実からして前記定期預金のほかになお記帳外の売上金による相当の手持現金があり、この金額は二〇、〇〇〇円を下るものではないと認め、これを前記定期預金に加算して申告外の所得を三六〇、〇〇〇円と認めた。

三、原告が誤つて必要経費として算入した法人税、市民税及び源泉徴収加算税額一九、一六〇円

右は法人税法第九条第二項の規定によつて損金として算入できないものである。

以上一ないし三を合算すれば所得金額は六〇四、七四四円となるが、原告において損金として算入し得るにかかわらず算入しなかつた昭和二七年度の事業税及び利子税計七八、六二七円を損金として算入し、これを前記所得額から差引けば所得額は金五二六、一一七円となる。

と述べた。

証拠〈省略〉

理由

原告主張の一の事実については当事者間に争がない。よつて各更正決定の適否について判断する。

第一、昭和二七年度更正決定

一、売上金

成立に争がない乙第一号証によれば、原告計上の売上金は一七、四二七、六五八円であつたことが認められる。ところで被告は小畠清名義の当座預金七六一、八〇〇円が原告の記帳外の売上金であると主張するので案じると、小畠清が原告設立以前、原告肩書地において原告と同種の小売業を経営していたが、原告設立とともに同社の取締役としてその営業にたずさわつて来たこと、同人が被告主張の当座預金口座を有し、右預金口座は営業上の取引のために使用されていたことは当事者間に争がなく、成立に争がない甲第三号証によれば昭和二七年二月一日以降三月二八日までの間の同預金口座の預入合計金は少くとも被告主張の一、〇四三、四三一円五〇銭以上であつたことが認められる。ところで原告のように個人営業を法人組織に変更して、他の役員もこれに参加し、従前の営業をそのまま引き継いだ会社にあつては、特段の事情がない限りは会社設立後の売上金が従前に比し目立つて減少することは考えられないところであつて、両者間にさして差違がないか、又は上昇するとみるのが相当であるか、前記申第三号証、真正に成立したと認められる乙第三号証、証人成毛和男の証言、原告代表者小畠武雄本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、(一)、原告の設立日の前後を通じ、前記清名義及び原告の各預金口座(但し後者は原告の日日の売上金を預け入れた口座)の各出入金の状況は別表(三)記載のとおりであつて、右別表によると、清の個人経営時代の預入金に比し、原告の預金口座の預入金はかなり減少しているに反し、原告設立後の同社及び清名義の両預金口座の預入合計額はほぼ同程度に推移していること、(二)、清名義の預金口座は原告と同一の取引先に対する営業取引のために使用されていること、(三)、原告代表者から税務官吏に対し清各義の預金口座の取引内容について収支計算書の提出を約しながら実行されていないこと、が認められ、右事実を綜合すると、特段の事情について主張、立証のない本件にあつては、清名義の前記原告設立後の預入金から被告において原告の営業収入でないと自認する同口座の昭和二七年二月二日預入金二二五、七三一円五〇銭、同月二二日預入金六五、九〇〇円の内五五、九〇〇円を差し引いた少くとも七六一、八〇〇円は原告の売上金であると認めるのが相当である。すると原告の売上金は原告計上の一七、四二七、六五八円に右預入金七六一、八〇〇円を加算した一八、一八九、四五八円となる。

二、営業利益金

被告は営業利益率を三・八パーセントとみるのが相当であるとし、これを前記売上金に乗じて営業利益金は六九一、一九九円であると主張するので案じると真正に成立したと認められる甲第六号証、証人成毛和男、同平野計太郎の各証言によれば、原告の記帳はその内容において、必ずしも正確なものでなかつたこと、税務官吏において、原告の計上した営業利益率が一・八パーセントであつて一般同業者の五・八パーセントに比し余りにも低率であり、右記帳の不正確と相侯つて原告の記帳によつては正確な所得を算出し得ないと考えて推計の方法によつたことが認められる。右認定の事情のもとにあつては税務官吏は所得推計の方法を採り得るものと考える。ところで証人成毛和男の証言によつて真正に成立したと認められる乙第四号証(大阪国税局の法人審理提要)によると、原告と同業者の平均営業利益率を五・八パーセントとしていることが認められるが、右法人審理提要作成の経緯、内容の正確性につきなんらの立証がないから、これをそのまま利益率算出の基準とすることが適当ではないから、右三・八パーセントが法人審理提要に示された平均率の範囲内であるからということだけで直ちにこれを採用することはできない。ところで被告は大阪国税局協議団の所得算出の結果を援用し、三・八パーセントの正当性を主張するのでこの点について考える。

(一)、売上金

証人平野計太郎の証言及び弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六号証、成立に争のない乙第一号証によると原告の帳簿の記載では年間仕入金は一五、七六二、一一一円、棚卸商品額は三七三、八三五円であることを認定することができる。そうするとその原価は一五、三八八、二七六円となる。右乙第六号証によれば、品目別原価を算出すると別表(四)記載の仕入欄の金額となる。しかして成立に争がない乙第五号証によれば品目別売買差益率は同表記載の率であることが認められるから、この率によつて売上金額を算出すると、卵二、三五四、二二五八円、砂糖二五九、一七〇円、青物五、〇二四、三六五円、生魚三、七一一、二九〇円、塩干二、九三二、八二四円、乾物二、一八八、五五四円、果物一、五七五、九〇七円、合計一七、八四六、四六八円となる。

(二)、売買利益金

売上金一七、八四六、四六八円から原価一五、三八八、二七六円を差し引くと売買利益金は二、四五八、一九二円となる。

(三)、必要経費

原告の算入した必要経費一、八四一、八七七円の内、次の(1) ないし(4) の分を除いたその余の分は当事者間に争がないから、以下争点となつた分について考える。

(1) 、消耗品費、但し、昭和二七年一一月二六日の分三、一二〇円、同月二九日の分一、五六〇円。

前記乙第六号証、証人平野計太郎の証言によると右消耗品費の支出がなかつたものと認められる。

(2) 、研究費五四七〇円

右は産業経済新聞、大阪日日新聞購入費であることは原告も明らかに争わないので自白したものとみなすべきである。しかして、法人税法において損金とはそれが収入を得るための営業上必要な経費であることを要するものであると解せられるところ、右新聞購入費はむしろ一般教養費として家計から支出すべき性質のものであつて、営業上必要なものとは認められないから、必要経費として算入することができないものといわねばならない。

(3) 、旅費六三、〇〇〇円

証人小畠清の証言、原告代表者小畠武雄の供述によれば、右は連日の如く大阪中央市場へ商品仕入のために出張した往復の経費として支出されたものであることが認められる。被告は右旅費の明細が明らかでなく、かつ一括支払の方法によつているから必要経費として認められないと主張するが、出張の事実があり、かつ、その旅費として支出されている限り、その主張の如き理由によつて右費用を必要経費から除外するべきものではないと解する。

(4) 、賄費二九、五三〇円

証人小畠清の証言、原告代表者小畠武雄の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告方では営業日に出勤した従業員約一一名に対し、昼食の際、一〇〇円相当の各副食を給与し、もつて同年度に前記計上賄費を支出していることが認められ、反対の証拠はない。しからば右計上経費は現物給与として従業員に支給されたものであるから、これを必要経費として認めるのが相当である。

よつて、必要経費は、原告が計上した前記一、八四一、八七七円から否認さるべき右(1) の消耗品費、(2) の研究費を差し引いた一、八三一、七二七円となる。

(四)、営業利益金

売買利益金から必要経費を差し引けば営業利益金は六二六、四六五円となる。

以上被告主張の大阪国税局協議団の算出の方法によれば、営業利益率が三・五パーセントとなり、被告の適用した三・八パーセントより低率となる。

しかしながら、被告のいう営業利益金は売上金から原価及び必要経費を控除した金額に外ならないところ、本件についてこれをみると、原告の売上金は前記認定のとおり原告の計上した売上金に小畠清名義の当座預金を加算した一八、一八九、四五八円であるから、右金額から前記認定の原価一五、三八八、二七六円及び必要経費一、八三一、七二七円を差し引いて得られた営業利益金は九六九、四五五円となる。したがつて被告主張の三・八パーセントをもつて算出した結果は右営業利益金の範囲内に属し、結局正当のものといわねばならない。

三、営業外利益

収入利息八四円、雑収入四四〇一円であることは当事者間に争がない。これを合計した営業外利益は四、四八五円となる。

四、所得金額

所得金額は営業利益金に営業外利益金を加算したものであり、これらを合算すると所得金額は九七三、九四〇円となる。

そうすると、右所得金額の範囲で原告の所得金額を六八一、六〇〇円としてなした被告の昭和二七年度更正決定は違法ではないといわねばならない。

第二、昭和二八年度所得

一、原告申告所得

右は二二五、五八四円であることは当事者間に争がない。

二、申告外所得について

被告主張の日時、その主張の定期預金がなされていること、預金名義人の身分関係、昭和二八年度における小畠武雄、その妻小畠絹子の年収合計額、小畠博正方の年収額が被告主張のとおりであることは当事者間に争がない。ところで被告は右各定期預金は原告の記帳外の売上金によるものであり、かつ、右定期預金以外にも二〇、〇〇〇円を下らない手持現金があり、これも右同様記帳外の売上金によるものであり、原告の所得に加算さるべきであると主張するが、被告の全立証によるもその主張事実を認めるに十分ではない。なる程、(一)、各名義人の身分関係、小畠武雄、同絹子夫婦、小畠博正の年収額が被告主張のとおりであり、証人小畠博正、同土田繁子の各証言、前記原告代表者本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、土田繁子の年収は九六、〇〇〇円であること、小畠武雄夫婦を除き各名義人は互いに、その住所、世帯を異にしていること、各定期預金に使用された印鑑は、預金当時いずれも小畠武雄の印鑑であつたことが認められるが、反面、(二)、定期預金の預入れは、前示のとおり小畠絹子の分については昭和二九年四月九日であり、小畠博正の分は同年一一月一〇日であつて、いずれも翌年度に属し上田繁子の分は、内一口が昭和二八年二月二日であつて昭和二八年度に属するが、同年度開始後、僅か二日目であつて、以上三口については必ずしも被告主張の如く、それが昭和二八年度売上金によるものとは推断できず、小畠武雄夫婦と小畠博正の各昭和二八年度及び翌年度(但し翌年度は特段の事情がない限り昭和二八年度と大差がないものと認めるのが相当である。)、土田繁子の昭和二七年度(但し、弁論の全趣旨によれば年収は八二、〇〇〇円)、同二八年度の各収入額からみれば、同人等においてそれぞれ前記の定期預金をすることは必ずしも被告主張の如く通常考えられない程高額に過ぎるとは考えられないのであつて、かれこれ併せ考えると、前記(一)の事実だけからして直ちに各定期預金をもつて原告の昭和二八年度の記帳外売上金の一部によるものと断定できず、他に被告の主張事実を認めるに足りる十分な証拠はない。

三、市町村民税、源泉徴収加算税

市町村民税一八、二七七円、源泉徴収加算税八八三円(但し、原告計上の所得税延滞料は弁論の全趣旨によつて源泉徴収加算税の誤りであると認める。)、合計一九、一六〇円が損金として計上されていることは当事者間に争がないところ、右は法人税法上損金に算入することができないものである。

しからば原告の所得は一の原告計上の二二五、五八四円に三の一九、一六〇円を加算した二四四、七四四円となるところ、原告において損金として算入し得る昭和二七年度の事業税及び利子税合計金七八、六二七円を損金として計上していないことは被告の自認するところであるから、該金額を差し引けば、結局原告の当年度の所得金額は一六六、一一七円となる。

そうすると原告の昭和二八年度の所得金額は申告所得金額より少額であるから、原告の所得金額を五二六、一〇〇円としてなした被告の同年度更正決定は全部違法のものといわねばならない。

よつて、原告の本訴請求は被告のなした昭和二八年度の更正決定の取消を求める範囲で理由があるからこれを認容し、昭和二七年度の更正決定の取消を求める部分は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上喜夫 西川太郎 小河基夫)

別表(一)ないし(四)〈省略〉

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